さいくりブログ

臨床トーク_002 報告 vol.2

桂氏によれば、「文化住宅(- 下記参照 -)」や「規格住宅」に代表されるような「生活はこうあるべき」という規範は、大正時代にすでにあったそうです。

桂氏が言っているのは、大正デモクラシー、ともいわれる時代のことと思われます。この時代は、戦時好景気の影響により、中流階級と称されるサラリーマン層が新しい都市住民として定着しはじめたり、政府により住宅組合法が制定されたりするなど、住宅政策が生まれはじめた時期なのです。

- 文明開化によって西洋式の生活が輸入される中、住生活は一部の富裕層を除いて江戸時代と大差ない状態が続いていた。しかし、大正に入り勃興してきたサラリーマン階層をターゲットとして、洋風の建築様式や内装を一部に取り入れたモダンな住宅が提案され、「文化住宅」と呼び名がつけられた。(参照 Wikipedia 文化住宅)-

ちなみにキッチン、ダイニングがくっついたものは日本が発明したものだそうです(川俣氏)。戦前からヨーロッパやアメリカの影響を強く受け、その頃の人も、「日本にとってのモダニズムとは何か」と一生懸命考えたはずです。東日本大震災を経て、一年が経過した現在、このような状況になったからこそ、今の東京でもそのことを考える必要がある、と桂氏は指摘しています。「スーパーに進んでしまったモダンである」東京が、福島に「背負わせてきたもの」が見えてきたからこそ、考えなければいけない、とのことです。

地方が東京の原風景になっているという一般的な考え方もできますが、逆に、日本のモダン(近代)のあり方は、「東京を突出させることによって、実は地方を定義させてきた」という考え方もあるとのこと(桂氏)。川俣氏はここで「東京に住む人達はどんなコミュニティを優先するのか」という疑問を投げかけます。しかし桂氏は、都市が共同体であるという共同体説からは東北(広い意味での地方ということだと思われます)は見えてくるけど、東京は見えてこない、と東京を共同体説から語ることを避けます。あくまでも、震災、戦争を経た、近代の都市計画に焦点を当てていくようです。当時の都市計画の重要な点は、交通と通信を発展させることによって、働くところと住むところを分けたり、工場と本社を分けてきた、ということでした。また、「東京計画1960」で基本的な概念だったのは「ハイウェイ」であり、都市計画に交通と通信が重要なテーマとなることは、非常に”オーソドックス”なことなのだそうです。

© future-proof.jp.

ある意味、国策とも言える「東京計画1960」が作られた頃は、日本は高度成長期で、1964年に東京オリンピックがあり、芸術の前衛的なムーブメントであった「前衛」、「具体」、「実験工房」などもその時代にありました。それらのムーブメントを起こした人達の子供時代が、1930年代であることから考えても、当時の都市計画が大正時代にすでに方向づけられていたかのではないか、と桂氏は語っています。そして、そのような流れがあるからこそ、戦後という概念も考えなおさなければいけない、とのこと。確かに大きな節目ではありますが、「何でもかんでもすぐに”戦後社会”というのもどうなのか?」と問題提起されています。

桂氏は、戦前と戦後を大きく分断せずに考えなければいけない理由として、大正時代にすでに、東京が「消費のモデル」になっており、実は「住むモデル」ではなくなっているということを認識しなければいけないという点があると続けられました。つまり、都市計画という視点から見た場合、大きな分断のポイントを「震災、戦争」に置くのではなく、1930年代の大正デモクラシー周辺の時代に置く必要がある、ということでもあるのでしょうか。それまで寝るところと食べるところが一緒で、自営業が大半だった時代から、大正時代に入り、働くところと住むところが分離するようになり、サラリーマンという人種ができ、「都市生活」というのが規範になってきたことを認識し、そこから、東京について考えて行かなければいけない、ということなのでしょうか。

東日本大震災の後、現在の「東京」について、桂氏は「本当に終わりの始まりだと思っている。」とのこと。1960年の東京計画は50年前ですが、その前の関東大震災にいたってはほぼ90年近く前の計画で、その時から言われている規格とか、標準などの規範は、当然のことながら、もはや古くなっている、とのことです。そこから紐解いて考えなくてはいけないのに、みんなが楽観的なのは何故なのだろうと、憤っておられるようでもありました。曖昧な理解ながらも、桂氏のいう「規範」は、「東京が消費のモデルである」という点を指し、「それはもう通用しなくなってきている」というご指摘であるとするならば、まさに我々が直面している問題であり、前回のトークにおける「東京は総合的に見て、まずい」とのご発言が、より明瞭に浮き上がってくる気がして参ります。緊迫の次回を、少々お待ち下さい。

当日の模様はこちらからご覧いただけます。
https://youtu.be/yZRqzyHxrDI
https://youtu.be/2XI8MaBgJ5s