さいくりブログ

PROJECT「アウトプットの欠片たち」市川拓司×西條朋行

Project「アウトプットの欠片たち」に参加させていただきました。

新宿の人の多さにあてられた、という市川拓司先生。最初は、待合室の白いソファの片隅で静かに座っておられました。

「今レベルゲージが振り切れたけれど、もうすぐ元にもどると思う」というお言葉はご自身をモデルとして描写された作品の表現と同じでした。

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その後、調子を取り戻され、対談開始前1時間頃から、終了(予定時間を1時間超過していました)までの3時間近く、ずっと興味深いお話を次から次へと話し続けてくださったのも、「ぼくが発達障害だからできたこと」に書かれていたことと同じでした。私(西條)は聞くことは得意でも話すことは不得意なので、当日はどうなることかと心配していましたが、市川先生というインプットとアウトプットの達人が、凡人の杞憂を一掃してくださいました。

 

トークイベント開始直後は、集まってくださった方々に「さいくりツアー」と称して、メンタルクリニックとはどういう場所なのかをお分かり頂けるように(多分、西條クリニックは一般的なメンタルクリニックとはいささか違っていると思いながらも)、ご案内して差し上げました。

その後、私が、桂英史さんらとともに行ってきた Epoch Making Project の紹介を少しはさんで、市川先生の興味深いお話が始まりました。

 

自身でパソコンの創作までしてしまうと言うほどコンピュータに詳しい市川先生はインターネット初期の頃のネット上の交流には、美意識と志があったと仰います。

初期に立ち上げた、ご自身のウェブサイトの掲示板はネガティブな書き込みが一切ない、「奇跡の掲示板」だったそうです。

どの世界でも、徐々に、声の大きい、美意識に欠ける人々にむしばまれ、創始者との志とは離れた「・・・道」の世界に入ってしまう。

このへんは、アートプラクティスや精神医療も、常に制度に絡め取られ権威化してしまう危険性があるという私の拙文における主張と同じで大いに共感できるところでありました(ASD型自己の臨床知を基礎とした芸術知についての試論 LOOP 映像メディア学Vol.7掲載)。

ちなみに今、SNSの中で美意識が残っている(美意識に守られている)ものはインスタグラムでしょう、とのことでした。

 

西條クリニックが非常に新宿御苑に近いということもあってか、エピジェネティクス のご紹介もしてくださり、週に一度でも、森や川など、自然に分け入って、遺伝子のスイッチをオンにしておいた方がいいと勧めてくださいました。疾患の罹患率が、公園を中心として、同心円状に、公園から離れれば離れるほど増加していくという報告もあるそうです。その点では、西條クリニックは最良の場所にあると言えますが、近隣の方々にたくさん来院してほしい、という観点をもったならば最悪の場所であるとも言えそうです(冗談です)。

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フロアから、学校でのお子様の問題についての質問が上がった際には、「学校ほど理不尽なシステムはない」「合わない、ダメだなと思ったら逃げて構わない」と即座にお答えになられました。市川先生自身は、理不尽なものを目にしたら、どんどん逃げる選択をしてきたそうです。でも、そもそも、ご自身の主張や考えが間違っているわけではないのだから、正確には「逃げる」のではなく、「戦略的撤退」であると考えておられたそうです。こうした考え方は、本当に勇気づけられますよね。

 

トークイベントの終盤に、今後は、ロマンチシズムに満ちあふれたご自身の作品の随所に、美意識を保持することの大切さや、自然科学的な知見をも加味して、教育できるような作品を創っていきたいと仰っていました。先生はきっと、透徹した批判精神と、凄まじいインプット、時には戦略的撤退を用いつつ、柔軟に難局を切り抜けて、その困難な課題を達成していかれるのでしょう。

 

IMG_7672「人の動きがスローモーションに見える」「花火や閃光が飛び交い、百花繚乱の様相を呈する夢を頻繁に見て、あまり深くは眠れない」という市川先生。本日も、サービス精神旺盛で、話し続けてくださいましたが、「帰ったら少しまた落ち込みが来るんです」と仰っていました。

10人程度の集まりであった本イベントについて、「このくらいの人数が丁度いい」と安堵の表情でおっしゃってくださった先生は、本当に飾り気がなく、その意味でも、ご自身の仰っていた「作家になってもアウトサイダー」な方なのでしょう。まさに愛すべき人物でした。だから、一層なのかもしれませんが、途中から(いや、結構イベントの序盤から)私の職業意識が頭をもたげ、先生の脳を、「休むべき時には休ませて差し上げろ!」と自分を突き上げ続けていたこともここに述懐させていただきます。市川先生、当日はお疲れ様でした、そしてありがとうございました。

レポート:西條朋行